<学校教育について語る>
ー平成14年度「丹原少年式」の記念講演講師を決めるきっかけー


(プロフィール)

渡辺喜生 / 愛媛県小中学校長会副会長
       東予周桑小中学校長会長
       丹原町立丹原東中学校校長(平成14年度末定年退職)

夏木ルミ子 / 創業69年老舗呉服商、輸入雑貨ショップ「なつや」三代目社長
        「自分らしく生きる」講師
        「かがやく女性の輪」代表
        「冴木杏奈タンゴ保存会」代表


−本日は少年式おめでとうございます。式が無事に終わったところで、渡辺校長先生と、夏木ルミ子先生にいろいろとお話を伺いたいと思います。お二人のご縁は一年前の丹原東中学校の課外授業からとお聞きしていますが。

渡辺 そうですね。今の二年生が一年生のときに外部講師の講座を開きたいという要望がありまして、講師の先生を探していました。従来、学校の先生だけが子どもを守っていたという時代もありましたが、学校は教員だけで子どもを育てるのではなしに、もう開かれなければいかんのだと思うんですよ。外部の講師を導入したり、地域にも招聘してお話をしてもらうという方針でおりましたので、夏木先生にお話をしていただくということになりました。

−そのときの講演を聴いて、校長先生はどのようなことを思われましたか?

渡辺 そのときは、上手な講演はいくらでも聴いているけれど、自分を赤裸々に語る、腹割ってお話ができる人の講演というのが気に入ったんです。「自分の過去を語れ・・・」というのが、いつも僕が若い教師にいいよることなんです。道徳の授業でいろいろな一流の資料で勉強しても、子どもの心はそんなに動かんけど、「教師の生い立ちを語ってみろ、子どもが見事に変わるけん」というのが私の道徳の授業の考え方なんです。まさしく自らを語ってくれたなあと思いましたね。
 人の目を気にしてマイナス面に触れずに終わってしまう話もだいぶあるんですが、夏木先生はマイナスの部分も子供たちの前で気持ちよく語ってくれた。子どもたちにとってはそういう自ら挫折した話も大いにプラスになるんじゃないか・・・。
 学校教育で今一番不足している面を見たような気がしたんです。
 そのときに、子供たちよりも今の母親に聞かせておきたい話だったねえというようなことを夏木先生にお話ししたんですよ。親子が共に学べる共通の時間を生み出すことが私の日ごろの想いでありましたので、母親にも聞くチャンスを作らなければいけないなということが自分の心の中に残りました。
 次は何の機会に話をしてもらおうかと思っていたところです。

夏木 私が一番気が楽になったのは、渡辺校長先生が「すぐに役に立たなくてもいいんです。でも大人になったときに思い出してくれたらいい。そのためにも今の話は子供たちに大事です」といわれたからなんです。

渡辺 僕は教育はその日に答えを求めたらいかんと先生方に言うんです。子供がこう変わった、結果を出して云々という話が多いけど、実は中学校のときのあの話は、子供が生まれて初めてあのことだとわかったとか、そういうことが話の中に、端々に残っておることが生涯の教育につながったらいいんじゃないでしょうか。
 生涯教育というのは、自分が勉強を生涯するということですが、若いときに受けた教え、読んだ本、その一説が40歳になって「あっここだ」とひらめいたりする、それが生涯教育だと日ごろ思っておりますので、即結果を求めて効果がこうだというようなことは早計じゃないかなと思います。今日お話を聞いた子供たちが母親層になったときに、あのことがわかったという子がおるんじゃないかなと思います。
 だから今すぐにお話が響かなくてもいいと思います。

夏木 結果を将来に託しているわけですから、前回丹原東中学で課外授業をしたときの生徒たちの感想文を読んだとき、消極的な子が積極的になったというのは本当にうれしいですよね。あの感想文を読んだときの感動は逆に大きかったです。

渡辺 子供があれだけの感想文を書くのは、心に響いているものがあるから書けるわけで・・。そういう面ではさらに今思っている感想以上のものが、その年齢になったときには響いて、輪が広がっていくんじゃないかなと思います 。

夏木 義務教育の子供たちなら感性がみずみずしいんじゃないかな、多分そうじゃないかという想像の世界でしたが、丹原東中学との出会いはそれは本当だったんだという実証でしたね。自分の夢がもっと強くなった、もっと信じられるようになったんです 。

渡辺 夏木先生が子ども達の前で話しをする機会をいただいて…と盛んに言われるけど、今までにそういう出会いがなかったのが不思議だなと思いました。そんな形で子供たちの世界に夏木先生の話が入ることが、ひいては保護者の世界に入っていくことでもありますから。
 子どもを変えるときに、家庭が変わる、母親の物の見方考え方が変わる。そういう意味でもっともっと地域から変えていかなくてはいけないと思いますね。
 子どもたちはいろいろ不安や迷いを持って毎日を生きていると思います。それを夏木先生の話で、迷いがないんだということではなくて、このまま思うように生きたらそれでいいんだという、それがひとつの自信になって、生き生きと生きることができるということにつながるような気がしますね。
 徳を治めた人でも、常に迷いはあると思いますから。そいうう迷いを自らの信念で迷いがないんだと言い聞かせていくものを自らが持つことが強い力になるんじゃないかと。
 子供らの世界からそういう不安を取り除いてやるのが周りの人間のする仕事ではないかと思いますね。
 学校の一番大事なことは、共に語らえて、笑うときは笑える、泣くときは一緒に泣ける、そういう世界を作ることじゃないかと思うんですよ。

−少年式という行事を行っているのは愛媛県だけのようですね。

渡辺 愛媛県は東京の会に参加して、これこそまさしく子どもたちのためにという先見の名があったればこそ、こういう行事が継続したんだけれど、そのときの参加した人が無感動であればつながらなかったでしょうね。将来の子どもを大事に思っているかどうか、そこらにかかわってくるんじゃないかと思いますね。
 戒田さんはそういう面でえらかったんでしょうね。

夏木 渡辺校長先生も次の世代のことを思っていますよね。本当の大人というのはそういう人を言うのではないでしょうか 。

渡辺 ありがとうございます。38年間の教員最後の歳に温かく迎えてもらって、自分の仕事の総決算が教育界に投げかけたものに残るんだったらうれしいですね。我々の仕事は子どもがいかに成長してくれるかにかかっているわけだけれど、今言ったことが子どもにすぐに跳ね返って出てくるものじゃないということだけは長い目で、お付き合いせねばいかんと思います。

(平成15年2月4日
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